食堂作法

10.12 食堂作法 奈良におもえば

東大寺の本行の修二会では、毎朝の「食堂作法(じきどうさほう)」が静かに始まる。筒井長老と志賀直哉氏の孫、現代アートコレクターの山田裕さんが、入江泰吉の写真の中から選んだ一枚——それは、この儀式の緊張と静寂を映し出している。

二月堂の机の上には、日の丸盆と大きな鉢を伏せ、その中に塗り椀などを整える。すべてが「食堂作法セット」として厳密に準備される。正午、「処世界(しょせかい)」と呼ばれる僧侶が鐘を鳴らす。その音を合図に童子たちは動き出し、水場へ駆けて他の部屋の子方と短く言葉を交わす。そのわずかな会話が唯一の息抜きとなる。

下堂後の茶粥(ゴボ)の米を洗い、袴に着替え皿上げの準備に入る。食堂作法は、参籠衆が一堂に会する唯一の時間であり、童子たちは練行衆が食事を終えるまで無言で待つ。合図とともに皿上げが始まり、毎日競うように素早く器を下げる。その緊張の中に、修行の日々を支える静かな熱気がある。楽しみは、食事と風呂だけ——それが修二会の素顔なのだ。