草は待たない——アトリエやま、手と手で守る季節

5月14日。

山の緑が濃くなり、草の勢いが日ごとに増していきます。

一日手を止めれば、昨日までの道が、たちまち緑に呑まれてしまう。

この山は、祖父がライカと交換して手に入れた土地です。

写真という「一瞬」を手放し、「長く育てる場所」を選んだ人でした。

父は、東京藝大に残るか悩んだ末に、

「独立してやっていく」とこの地に根を張る決意をし、

アトリエやまが生まれました。

そして、私が今この場所で彫刻を続けていられるのは、

家族と、そして一緒に汗を流した弟子たちがいてくれたからです。

草を抜き、木を伐り、土を運び、建て、整え、少しずつこのアトリエができました。

けれど自然は、待ってはくれません。

その手を止めた瞬間から、山は「もとのかたち」に戻ろうとする。

それが怖いとも、美しいとも思います。

今日は、その気持ちを詩にしました。

【詩】

「草は待たない」

草は待たない

名もなき葉が すべてを隠そうとする

ここは 祖父が手にした山

父が選んだ道

弟子たちが支えた斜面

雨の日も 雪の日も

みんなで土を運び

削り 塗り 立てた

草は知らない

けれど

草の勢いに負けたら

この場所も ただの山になる

だから私は 今日も刈る

語るように 削る

ここに 人が生きたことを

手が つくったことを

草と彫刻。

どちらも、放っておけば「元に戻る」ものです。

だから私は、今日も手を動かす。

削り、整え、声なきかたちを残していく。

当たり前のことを、一生懸命に。

それが、アトリエやまに息づく、三代の営みなのかもしれません。