5.12あなたの赤とわたしの赤
「現実とは何か?」——
昨日友人に誘われて行った哲学カフェでは、そんなテーマが話し合われた。
十五人ほどが集まり、それぞれの“現実”について語ったが、
結論など出るはずもなく、むしろ“現実が一つではない”ということが、静かに浮かび上がった。
翌朝、その話を絵描きの娘にすると、彼女はこう言った。
「現実も面白いけど、色のパラドックスのほうがもっと面白い」
そして
「人それぞれ思ってる“赤”が違うねん。
私が“赤”と思ってる色と、ママの“赤”は、”青”かもしれない」
それは、色彩に詳しい彼女だからこそ自然に出た言葉だった。
たしかに、私たちは「赤い花」を前にして同じ「赤」を見ているようで、
実際には、それぞれの眼と脳と記憶を通して、まったく違う“赤”を見ているのかもしれない。
それでも、「それは赤だね」と笑い合える。
違っていることを知りながら、同じ名前を共有している。
現実も、きっと同じだ。
地球が丸いと信じる人と、平らだと信じる人。
見ている現実は違うけれど、それでも「ここに立っている」という感覚は共通している。
違いを怖れず、それでも確かに何かを分かち合うこと——
そこに、表現の意味も、生きる手がかりもあるのかもしれない。
娘の言うとおり、「色のパラドックス」は現実より面白い。
なぜなら、“違っていること”を前提に、それでも“同じ”と呼ぶことができるから良いなあとおもった。
今日も素敵な一日をお過ごしください。
