5月、立夏を過ぎると、光が少しずつ夏の色を帯び始めます。

私はこの時期、特別なものを部屋に飾ることはありません。
アトリエの窓辺から見える菖蒲の紫が、十分すぎるほどの「季節のごほうび」だからです。
作品を生み続ける日々の中で、私は強く思います。
感覚を研ぎ澄ませるとは、むやみに新しい刺激を求めることではない。
すでに目の前にある、季節がもたらす一瞬一瞬を、どれだけ純度高く受け取れるか。
この問いに、自分を開き続けることだと。
朝の光で感覚を整える
朝、まだ冷たい空気が残る時間に窓を開けると、光が驚くほど柔らかいことに気づきます。
その光に、ただ静かに身を預けることで、作品に向かう心がまっすぐに戻ってくる。
何も足さない、何も削らない。
私にとって制作は、常に「澄ます」作業の積み重ねです。
身体を潤すことで感覚を鈍らせない
初夏は、知らず知らずのうちに体の内側が乾いていきます。
水分補給は単なる健康管理ではなく、感覚の精度を保つための基礎。
私は温かい飲み物を選び、内側をゆっくり潤すよう心がけています。
そうすることで、触れる素材のわずかな抵抗や、空気の重ささえ感じ取れるようになるのです。
菖蒲の紫がもたらす静かな対話
アトリエの窓から見える菖蒲は、何かを語りかけてくるわけではありません。
ただそこに、季節の確かさとして在る。
それを目にするたび、自分の内側にたまった余計なものが、そっと溶けていくような気がします。
アーティストにとっての「ごほうび」とは、決して華美なものではなく、こうした静かな対話の時間なのかもしれません。
終わりに
季節は、作品を通じて私たちに絶えず問いを投げかけてきます。
感覚をひらき、外の世界と自分の内側を澄ませることで、その問いに少しでも誠実に向き合いたいと、私は思います。
今夜、皆さんが耳を澄ませるべき「季節の声」はどこにありますか?
静かな初夏の空気とともに、どうぞ良い時間をお過ごしください。