石根の皿、倫の心

5月2日

朝、焼きたてのウインナーを皿に並べる。

この皿には「倫」の文字。父・石根が焼いたものだ。おそらく世界で一番皿を焼いた彫刻家、石根。

「倫」という一字は、お経から取ったのだろうと私は思っている。人と人の間の道理、秩序、つながり——人が人として生きるための筋道を指す言葉だ。

ふと皿の裏を見ると、「華厳唯心偈」の文字が刻まれていた。

華厳唯心偈は、すべての世界は心によって成り立つと説く。父はきっと、作る手と使う手のあいだに流れる見えない心の働きを信じていたのだろう。私もまた彫刻家として素材と向き合っている。思い通りにいかない手の感触、かたちにならない焦燥、そして時折訪れる小さな歓び。

父の手がつくり続けた皿もまた、そんな葛藤と対話の積み重ねの中から生まれたのだと思う。

「倫」の皿にのった朝のウインナーを見つめながら、私は今日も手を動かす。

かたちを超え、人の心にそっと届くものを求めて——それこそが、父から私へと手渡された「倫」のこころであり、華厳の教えのかけらなのだと、今は思う。

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